ネタバレなし
おとぎ話のようなものかと思っていました。
主人公がある日突然、大きな虫になってしまうという話です。
全然。おとぎ話ではありません。
え、どうなっちゃうの。。という展開。
予想もつかない展開になっていきます。
不思議なんですが、リアルです。
さすが名作と呼ばれるだけある。
海外の作品って、なんとなく手に取りづらいのが私ですが、
これはイチオシです。
文庫本自体も薄めなので、読みやすいです。
非日常なのに、これだけリアルに、独特のタッチで淡々と描かれ、
人間生活の日常にグレーゴルという「虫」が溶け込んでしまっていて、凄いです。
※ネタバレ
私の中では勝手に、コガネムシのような感じ?と思って読んでいました。
でも『這った後にネバネバしたようなものが付く』ので、ちょっと違うのかなとも思うのですが。
カフカが虫を強調するためにとった表現なのかしら。
主人公のグレーゴルはしっかり者のお兄ちゃんという感じでしょうか。
妹と父母の4人暮らし。
『女中』も出てくるので、お手伝いさんといった感じ?
この兄であるグレーゴルが生計を立てていて、父はもう働いていなくって。
物語は朝、仕事に行けないグレーゴルから始まります。
朝起きたら突然、虫になっていた。
自分が虫になったことに気付いても、俯瞰した様子で、仕事に行こうとするのです。
何分の電車には乗らないといけない..みたいな。
でもいつもの時間に来ないから職場の上司である支配人が家にやって来るのです。
家族はみんな家にいるのですが、ワーワー、ざわざわ。
そんな中で鍵のかかった自室から、ようやく人前に姿を現すグレーゴル。
初めは恐らく、人間の言葉として、言葉が通じているのですよね。。
ドア越しに家族の呼び声に応答していて。
だから家族もグレーゴルだとは認識している。
虫なのに、二足歩行を頑張っていて。
でもね、目の前に現れたのは人間の姿ではなく、大きな虫でみんな大パニック。
上司の支配人をも、その姿で追いかけようとしてしまいます。
その後には、父親が「シッシッ」とグレーゴルの部屋に引き戻すのです。
この頃には言葉が完全に通じなくなっている感じ。
でも、グレーゴルには人間の言葉が分かっているのです。
発せなくなっているだけで。
でも発そうともしなくなっていくところがまた描写として描かれていて、
それが何とも虫たらしめている?というか。
本当に「虫化」してしまうのです。
虫に感情をもたせたらこんな感じなのかもな、と思ってしまうほど。
二足歩行ではなく、四つん這いになると歩きやすい。
パニックになると、這いまわる。
でも壁や天井にまで行くと、世話をしてくれる妹に恐怖を与えるだろうからと、
それは人前ではしない。
妹は世話をしてくれるんだけど、
見るのも嫌そうだから麻布で上手に自分の体を覆ってみたり。
ともすると、優しさとも言えるこれらの行為ですが、
『人間』からすると、ただの虫なのには変わりなくって。
妹は初めは食べ物は何を食べるかなどと、考えているのですが
(でもそれも、虫だから腐ったものがいいかとか..)、
家計が苦しくなってきて、ホントにゾンザイな扱いになっていくのです。
なにせ、虫になってしまったグレーゴルが一家の収入の中心だったのですから。
リンゴ事件
普段、世話役は妹なのに、
母親が「息子ですもの」と頑張って、グレーゴルの部屋に入ったのです。
そして、グレーゴルの部屋にある家具やらを片付けようと。
グレーゴルは確かに、這うのには、家具があると邪魔だと最初は思うのですが、
思い出のものがたくさんある自分の部屋。
全部なくされては本当に自分でなくなってしまう..でも執着はない…
みたいなことが書かれていて。(ここは虫っぽい)
それでも、とある絵画だけは残したいと、普段は寝椅子の下に隠れているのに、
壁にかけてあるその絵画を覆うようにして守ります。
そしたら、それを見た母親は気絶してしまって。
え?気絶…実の母親なのに…
と思うかもしれませんが、どこからどう見ても虫なのです。
しかもこの母親、
初めてグレーゴルの変わり果てた姿を見た時も「助けてぇ」と騒いでおります..
相当、虫がダメみたい…
この後、仕事から帰って来た父親は、母が気絶しているのを知り、妹に詳細も聞かずに、
グレーゴルにリンゴを投げつけ、背中にめり込ませてしまいます。
これでだいぶグレーゴルは衰弱してしまうのです。
物語は終盤…
家計が苦しいので、3人の下宿人を家に招き入れるのですが、
妹がある日、バイオリンを演奏します。
グレーゴルが人間だった頃に、彼は妹のバイオリンを応援していました。
お金をかけて、しっかりしたところに行かせてやろうと。
3人の下宿人はバイオリンを眠そうに聴いています。
リンゴ事件の後、家族はグレーゴルの部屋を開けたままにすることも多くなりました。
以前はしっかり閉めていたのに。
妹のバイオリンを聴きつけて、グレーゴルはリンゴ事件後、たいそう衰弱してしまいましたが、
のろのろとバイオリンの音に引き付けられて、3人の下宿人の前に姿を現してしまいます。
こういう理性がきかないところも虫っぽくなっていますよね。
下宿人たちは出ていくと言い出し、家族は「グレーゴルともう一緒には住めない」と話し合う。
自分の部屋にやっとの思いで戻れたグレーゴルはここ数日、
何も食べれなかったこともあり、衰弱でとうとう死んでしまうのです。
えッッ!!!!!
衝撃ですよね。
ハッピーエンドにならないの!?
死んだ後も、下宿人3人と残された家族3人とが対比のように描かれていて、意味深。。
家族3人は涙は流しているみたいですが、
『虫』から解放されたその感情の方が中心に描かれていて、その描写がリアル。
まるで、介護から解放されたような、
でもその言葉では言い尽くせない、新しい言葉が必要なような感覚に陥ります。
(何と言っても、人間が虫になってしまったのですからね。。非日常)
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